なぜ今神仏習合? どんなふうに楽しむ? トークイベント「150年ぶりだね、諏訪の神様と仏様の再会 〜諏訪神仏プロジェクトとはなにか〜」レポート

日本の神道と海外からやってきた仏教が融合する日本独自の信仰形態である神仏習合。この考え方により、日本では神社に神宮寺と呼ばれるお寺が併設され、仏像などが祀られるようになりました。

諏訪大社にもかつては神宮寺があり、仏像が祀られていました。今から約150年前、明治政府の神仏分離政策によって神宮寺は失われ、祀られていた仏像や仏具も諏訪大社からなくなってしまいましたが、一部の仏像などは周辺のお寺に受け継がれ、現在も保管されています。

2022年秋に行われる「諏訪大社上下社神宮寺由来仏像一斉公開プロジェクト(通称・諏訪神仏プロジェクト)」は、そんな諏訪大社ゆかりの仏像や仏具を、周辺寺院で一斉に公開するもの。150年ぶりの神さまと仏さまの“再会”に向け、お寺、神社、研究者に地域の人たちなど、さまざまな人が参加し、準備を進めています。

諏訪旅でも、そんな諏訪神仏プロジェクトに向け、10月31日にプロジェクトに参加する4人の方を迎えてのトークイベントを行いました。

トークイベントの会場は仏法紹隆寺の普賢堂。ここには諏訪大社上社の本地仏・普賢菩薩像などが祀られています。

登壇いただいたのは、諏訪神仏プロジェクト実行委員会の会長で諏訪の信仰史や考古学を研究する「スワニミズム」会長の原直正さん、同じく「スワニミズム」会員で仏像マニアでもある石埜三千穂さん、諏訪大社上社の本地仏であった普賢菩薩像などを祀っている仏法紹隆寺の住職・岩崎宥全さん、信州大学人文学部教授で寺院・聖教の研究をされている渡邉匡一さんの4人。

左から渡邉匡一さん、岩崎宥全さん、石埜三千穂さん、原直正さん、諏訪旅・及川。

諏訪旅編集長の及川が司会となって、プロジェクトの背景や展望について聞いたこのトークイベントの内容をレポートします。

思い描かれながら実現しなかったプロジェクト

——改めて今回のプロジェクトについて教えてください。

宥全 日本では(神道の)神さまと(仏教の)仏さまがいっしょだった時代がだいたい1000年続いていて、およそ150年前の明治初年まで諏訪神社の横にも神宮寺というお寺があったんです。今でも「神さま仏さま」という方がいらっしゃいますよね。

そんな神さまと仏さまが、明治政府の神仏分離政策によって分けられたわけです。そのとき、ちょっと解釈を間違えたことで、廃仏毀釈、仏さまやお寺を壊そうという動きも起こってしまった。この諏訪でも諏訪神社にあった仏像や仏具が周辺のお寺に散らばってしまいました。

多くの仏像はこの仏法紹隆寺で引き取りましたが、25か所ほどのお寺にいろいろな仏具が分散して祀られています。そのかつての姿を今一度取り戻そうというのが今回のプロジェクトです。ただ、今から神社の周りにお寺を建てたり仏さまを祀ったりすることはできないので、それぞれのお寺で守ってきた仏像、仏具を一斉公開する。しかも、神社とともに行おうというわけです。

——一斉に公開されるというのはこれまでなかったことですね。

宥全 はい。それと同時に、本日いらしている皆さんといっしょに仏像や仏具、お寺などの調査・研究も行います。そういった調査結果も含めて、いろんなものを未来につないでいこう、と。

トークイベントの様子。

——プロジェクトはどういうきっかけで始まったんですか?

石埜 はじまりは宥全さんとの出会いですね。プロジェクトの構想自体は以前から頭にあったんですけど、実際にやるとなるとハードルが高い。
まずお寺さんをまとめる力も必要です。それも、一斉公開するといってもたとえば下社の本地仏(仏さまと神さまは同根のものであり、神さまは仏さまが姿を借りて現れたもののひとつとする考え方から生まれた仏像。諏訪大社の場合、上社は普賢菩薩、下社は千手観音が本地仏とされた)のように、60年に1回しか公開されない秘仏もある。さらに神社のご協力もいただかないといけない。それが宥全さんと出会ったことで動きはじめた。

宥全 石埜さんに「こんなことができないか」というお話をいただいたとき、これはやるべきだと思ってお寺さんを口説きはじめたんです。話してみると大方は前向きの雰囲気で、比較的スムーズに進みました。
諏訪大社さんの方は、実は別のプロジェクトで諏訪大社の方とお話をしていまして、そのなかで神仏習合プロジェクトの話も雑談で出したんです。そうしたら「地域が盛り上がるなら諏訪大社は喜んで参加しますよ」とおっしゃってくれて。それで企画書を書いて宮司さんに回していただいて、許可をいただいた。それで一気に走りはじめたんです。

石埜 この辺は時代の変化もあったと思います。私ごときが思いつく企画ですから、これまでにも思いついていた人はいたはず。でも、やっぱりハードルが高くて実現しなかったんだと思います。ちょっと前なら諏訪大社さんにしろ、難色を示したんじゃないかなと。

渡邉 実は私も昔こういうプロジェクトを考えていたんです。でもやっぱりお寺の方たちにどう話せばいいかという課題があった。そのとき、まとめていただきたいと思っていた方がいたんですが、なかなかタイミングが合わないうちに亡くなられてしまった。それで諦めたんです。だから、このプロジェクトの話を聞いたときはすごく嬉しかったと同時に、ちょっと悔しかったです(笑)。

宥全 私としてもやっぱり諏訪大社というのは敷居が高い。方や田舎のお寺、方や諏訪社という大きな神社の本山ですから。

石埜 仏法紹隆寺のご住職と照光寺のご住職といっしょに諏訪大社にご挨拶にいったんですが、その絵だけでちょっと感動してしまいました。

 私も話を聞いたときは驚きましたよ。プロジェクトで神前読経をやるとかっていうから、「そんなことやって大丈夫なの?」って(笑)。でも、了承していただいているっていうので。

渡邉 このプロジェクトの発足会見のとき、諏訪大社の北島(和孝)宮司が「どうしてこういうプロジェクトが早くできなかったのか」ということをおっしゃってて。

石埜 「難しいことはない。本来の形に戻るだけだから」とおっしゃってましたね。

渡邉 私、思わず「え!?」って振り返っちゃいました。神社の方がこんなことを言われるのか、と。時代の変化なのかどうかはわからないですが、こういう方たちがいたことがこのプロジェクト実現にとって幸運なことだったと思います。

長い歴史を持ちながら研究が進んでこなかった仏像たち

石埜 原さんは神仏習合というテーマの研究が少なかったころからずっとやっていましたよね。

 調べていると自然とこのテーマに行っちゃうんですよ。神さまについて調べていると、「これ、仏さまについて調べないとわからないよ」ってことがたくさん出てくる。やたらややこしいところに目が行っちゃって(笑)。神仏習合をちょっとつまむと、そこから糸が広がるようにいろんなものがつながって見える。面白いんです。

石埜 諏訪の郷土史って特殊なんですよ。ここは(在野などの)郷土史研究がとても盛んなんですけど、同時にみんな自分が見たい分野しか見ていない(笑)。

渡邉 それは悪いことではないんですけどね。ただやっぱり自分の土地のことを調べようと思ったら、特定の時代やテーマに関心が集中することが多くて、そこから周辺に広がることが少ないという特徴はあるかもしれません。

 私も古代史が大好きでそこは調べるんだけど、中世なんかは長いこと触ろうともしていなかった(笑)。

トークイベントの前には岩崎宥全住職によるガイドツアーも。

——今回の調査・研究の意義はどんなところにあるんでしょう?

渡邉 今回皆さんといっしょに見る仏像というのは、非常に古い時代につくられているにもかかわらず、あまりお寺から出なかったものがたくさんある。つまり、あまり研究がされてこなかったものなんです。
そういう仏さまがたくさん出てくると、今までわかっていなかったことがたくさんわかってくるんじゃないかと思います。特に言い伝えなどで言われてきたことなどは、調べてみるとまったく違ったということも出てくるんじゃないかと。そうやって新しい歴史を発見して体験する、そういう期待がありますね。

石埜 仏像マニア的にも一番おいしいところです。ものすごく古い時代の仏像もあるらしいんですが、それはずっと秘密だとされてきた。お寺の本尊ですら調査されていなかったりするんです。今回、そういうところもプロに調査してもらえる。だから、公のプロジェクトですけど、私自身はもう私欲ですよね(笑)。

宥全 ここにある普賢菩薩像。これは上社の本地仏、つまりもっとも大事な仏さまですが、無指定(文化財などに指定されていない)です。かつてはボロボロで、「あ、なんか仏像あるね」ってくらいの状態だった時代もありました。でも、直して調べていくと諏訪にとっては欠かせない仏さまだというのがだんだんわかってきますし、こうしてちゃんとお祀りすると、多くの方がこの仏像の素晴らしさに気づいてくださる。
だから、ほかのお寺でもちゃんと調べていくとすごい仏像だとわかるものがたくさん出てくるんじゃないかと思います。

仏法紹隆寺に安置されている普賢菩薩像。実は象の上に乗っている仏さまは、織田信長の諏訪大社焼き討ちの際に焼失し、その後作り直されたもの。元からあった象の大きさから見ると、以前の仏さまはもっと大きかったのではないかと考えられているそうです。

石埜 調査結果によっては自分が妄想していたより残念な結果だったということもあるとは思うんですが、それよりも真実を知るのが嬉しいんですね。

想像力とともに150年前の諏訪へタイムスリップ

——この一斉公開、どんなふうに楽しめばいいでしょう?

渡邉 神社のなかに普通にお寺があった150年前にタイムトラベルしようという企画ですよね。でも、一斉公開はできるけど、さっき宥全さんもおっしゃっていたように今から神社にお寺を建てることはできない。だから、皆さんに想像していただく必要がある。
諏訪大社は絵図がいろいろ残っています。江戸時代の絵図なんかは割とリアルです。そういうものを見て、かつての諏訪をイメージして出かけていただければ。仏さまは各お寺さんなどで公開されるわけですが、「これが諏訪大社のあそこにあったんだ」というように想像力を駆使していただいて、実際に150年前の諏訪のなかを歩いているような気持ちで回ってもらえればと思います。

普賢堂に安置される文殊菩薩像。弘法大師作と伝えられる仏さまです。左目の傷は、廃仏毀釈の際に付けられたものだそうです。

石埜 諏訪の神宮寺は境内もかけらも残さず完全に消えている。特に下社はほとんど痕跡もない。さらに今ではそのあたりに家も建っている。それでもわずかに残った石垣などからかつての様子をイメージしていく必要があるんですよね。「下社神宮寺の大坊の白い塀は夕日に映えて上諏訪からよく見える」なんて言葉も明治時代に残っています。
秋宮の脇にあったお寺が上諏訪からよく見えたということです。それがどんな姿だったか、想像力をたくましく考えないといけない。そういうなかで、地元の人でも今では知らないような遺跡なんかをご案内するガイドツアーみたいなこともやりたいと思っています。

宥全 そうやっていろんな方といっしょに盛り上げるのが大事だと思います。私もいろんな街づくり団体に所属させていただいて感じたことですが、やっぱりお寺と神社だけではなかなか活動や運動って広がっていきません。お寺と神社だけでは知識も足りないし、伝える方法もわからない。
だから、こういう素晴らしいプロジェクトは地域の皆さんといっしょにやってこそ意義があると思います。こうしていろんな分野の専門家の方に入ってもらうことで、私たちでは思いもしなかったような展開や行事が生まれていく。だから、この諏訪神仏プロジェクトは諏訪地域の総合力で来年を迎えたいと思います。

石埜 なぜ広げていく、知ってもらうことが重要かというと、知ると誇りに思うんです。そして、誇りに思うと守ろうと思うんですね。守るべき大切なものがあっても知らなければ誇りには思わないし、いくら壊されても何とも思わない。(神宮寺などの遺構は)すでに半ば手遅れなのは事実なんですが、それでも「そういうものがあった」ということを知ってもらいたい。そのためにいろんな手段、方法を考えていけたらと思っています。

——今回のプロジェクトは本当に地域の土台となる部分を改めて見つめ直すきっかけになるんじゃないかと思います。本日はありがとうございました!

地域全体でつくりあげるプロジェクト

諏訪地域内外から40名弱の聴衆が集まった今回のトークイベント。参加者のみなさんからは、

・諏訪全域で盛り上げるプロジェクト、というところが素晴らしい。他の地域にはないこの地域独特の「諏訪力」を感じました!
・仏像や様々な調査で明らかになったことに基づき、修復するための資金はクラウドファンディングなどに取り組んでいただければ協力したいです。
・知ること、大切に思うこと、守っていくこと、省みること、楽しむこと、全てに共感できました。
・神仏分離の政策により150年、また一つになって蘇ることは大変意義があること。
・歴史ある仏法寺で開催され、会場としては素晴らしかった。諏訪の生まれですが、こんな立派なお寺があることがわかり感心しました。 来年の一斉公開、楽しみにしています。
・普賢菩薩様の元で講演会をお聞きできてよかったです。
・また続編を開催してほしい。

といった声が届きました。

宥全住職がお話しされたように、神仏プロジェクトはお寺と神社だけでなく、街づくり団体や研究会、民間企業など地域一体となって作り上げているプロジェクトです。2022年秋の仏像一斉公開に向け、諏訪旅も情報発信を通してこのプロジェクトを盛り上げていきたいと思います!
今後の取り組みや調査・研究の結果などについては公式ページにて随時公開される予定です。ぜひチェックしてみてください。

諏訪信仰と仏たち〜諏訪上下社神宮寺由来仏像一斉公開〜(略称:諏訪神仏プロジェクト)
開催期間:2022年10月1日(土)〜11月27日(日)
会  場:諏訪地域社寺25箇所、諏訪市博物館、下諏訪町立諏訪湖博物館
内  容:諏訪社神宮寺由来の仏像等の一斉公開・博物館等における特別公開展の実施
公式ページ:https://suwa-tabi.jp/feature/suwa-shinbutsupj/
               

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