こんにちは、諏訪旅のおいちゃんです!
江戸時代に諏訪地域で唱えられていた「幻のお経」が復元されたらしい……
そんな噂を聞きつけてやってきたのは長野県諏訪市の仏法紹隆寺。
幻のお経とは何か、なぜ途絶えてしまったのか、なぜ今復元しようと思ったのか。岩崎宥全住職に、気になることをあれこれ聞いてきました!
諏訪の神様・仏様を褒めたたえる「諏訪講乃式」
幻のお経を復元させたと聞いたんですけど…… |
はい。『諏訪講之式(すわこうのしき)』という、諏訪の神様と仏様のすごさ、すばらしさを唱えるものです。『諏訪講式』とも呼ばれています。
神仏習合の時代に唱えられていたものですが、明治初期の廃仏毀釈で失われ、以後150年間唱えられることがありませんでした。 |
諏訪の神様と仏様のすごさを唱える。それって普通のお経とは違うんですか? |
みなさんがお葬式などで耳にするお経は、お釈迦様の言葉・教えが唱えられています。よく知られているところで言えば、『般若心経(はんにゃしんぎょう)』は“空(くう)とは何か”という問いに対するお釈迦様の言葉を唱えています。
一方で、今回復元した『諏訪講之式』は「講式」と呼ばれるお経の一種で、お釈迦様の言葉ではなく、人間の立場から神様・仏様をほめ讃える言葉が並んでいます。 |
かつて日本では、神様と仏様が一体のものとして信仰されていた時代がありました。もともとインドで生まれた仏教が日本に伝わり、日本で信仰されてきた神道と融合して(神仏習合)、神社に「神宮寺」が建てられたり、神社に仏像が置かれてお祀りされていたのです。
今回復元された『諏訪講之式』は、そんな神仏習合の時代に諏訪で生まれたお経。1674年の諏訪大社下社の記録に、御射山(みさやま)の祭りで唱えたという記録が残っています。
明治に入り、神仏分離政策によって別々の道を歩むことになった神社とお寺ですが、150年前までは「お坊さんが神様をほめ讃える」ということが普通に行われていたようなのです。
講式は全国の地域で唱えられていたと考えられていますが、そのほとんどが失われてしまいました。『諏訪講之式』も唱え方は分からなくなってしまいましたが、文章としては残っていた。先人たちが残そうとしてくれたおかげです。 |
「音」の復元という難題
150年前はテープやビデオなどない時代ですよね。唱え方はどうやって分かったんですか? |
まさしく、テープがあるわけではないので、「音」の復元はとても難しかったです。今回復元したものも当時の唱え方と完全に一致しているかというと、本当のところは分かりません。 でも、高野山で今も唱えられている『明神講式』という講式の音の運びが、全国各地の講式と共通することが分かっているんです。今回は『諏訪講之式』の内容を読み込みながら、『明神講式』の音を当てはめていくことで復元を図りました。 |
唱え方は種智院大学教授で、淡路島にある海福寺住職の潮 弘憲先生に監修をお願いしました。お経は「伝授」をしていただかないと唱えることができません。2021年11月に海福寺にて伝授していただき、『諏訪講之式』を正式に唱えることが許されました。 第一讃(曲でいう1番)だけで20分くらいあるのですが、一番盛り上がるところをちょっと唱えてみましょうか。 |
おお……思っていたよりも抑揚があるというか……お経って淡々としているイメージがありますが、講式はダイナミックな感じなんですね! |
そうなんです。『諏訪講之式』はものすごく簡単に言うと、「諏訪明神ってすごいんだよ!」という内容です。それをダイナミックに音に乗せて表している。当時は識字率が低いですから、一般庶民はこの音を通して信仰を深めていたんだと思います。 |
神仏習合の息吹を現代へ
なぜ今『諏訪講之式』を復元しようと思ったんですか? |
『諏訪講之式』の存在自体は前から知っていましたが、具体的に復元に向けて動き出したのは「神仏習合プロジェクト」の計画を始めた2019年からですね。「神仏習合プロジェクト」は、諏訪社神宮寺由来の仏様を所蔵する各寺院で一斉公開し、神様と仏様が一体のものとして信仰されていたかつての空気を振り返るというものです。 |
『諏訪講之式』は、まさに神仏習合の時代に生まれたもの。神仏プロジェクトが動き出したタイミングで、ぜひとも復元したいと思いました。 神様と仏様が一緒にほめ讃えられていた時代を、今に伝えたい。これは私の使命かもしれないと。 |
使命ですか……。神仏習合の時代を伝えていくことは、諏訪地域の歴史文化を見つめ直すという意味でもとても意義深いことだと思います。 |
『諏訪講之式』の中で、「これ本地勝劣にもあらず、垂迹高低※にもあらず」という部分があるんです。 仏様と神様とで勝劣もないし高低もない。どちらかが優れていてどちらかが劣っているのではない、ということです。私が一番好きなところです。神様も仏様も、等しく尊いものとしてお祀りされていた。150年間交流が途絶えていた神社とお寺ですが、ここでまた宗教の垣根を超えて、手を取り合っていけたらと思っています。 |
※原文では「尊卑」だが、差別語と捉えられるため今回は「高低」と唱える。
神様と仏様の力で未来を切り開く
およそ1,000年間続いたとされる「神仏習合」。かつては神社の中に神宮寺があることが普通の光景でしたが、今は全国を見ても神社とお寺が協同することはほとんどないと言います。
だからこそ“お坊さんが神様をほめ讃える”『諏訪講之式』の復元は、全国的にもとても珍しく貴重なプロジェクトなのです。今後は第二讃以降の復元も進め、完全復元を目指すとのこと。
そんな『諏訪講之式』、一般の人も聞ける機会が予定されています。この機会にぜひ、神仏習合時代の諏訪の空気を感じてください。
◆2022年1月10日(月・祝)13:30〜
仏法紹隆寺 諏訪大明神普賢菩薩新年大祈祷にて。時節柄、密にならない程度の参列にするため、祈祷申込者優先。1,000円〜御祈祷を受け付けています。
祈祷申し込みは仏法紹隆寺(0266-52-2241)まで。
◆2022年9月30日(金)時間未定
諏訪大社上社 神仏プロジェクト奉告祭にて。
ライター:おいちゃん信州松本生まれ、10歳から東京渋谷育ち。カルチャーショックを受け、小学生にして将来は地方移住することを念頭に生きる。大学卒業とともに縁あって茅野市に移住。諏訪旅1人編集部の編集長。 |