調査・研究

調査の位置付け

平安時代から江戸時代までの長い間、日本では神仏習合の考え方(神と仏は同じである)が根付いており、諏訪大社と相並ぶ「神宮寺」は、混然一体の存在として信仰されてきました。上社・下社それぞれの「神宮寺」には堂塔伽藍や複数の付属寺院が建てられ、多くの仏像が安置されていました。しかし、明治維新にあたり、新政府は神仏分離政策を押し進め、慶応4年(1868年)の「神仏判然令」により「神宮寺」は廃止となります。これに伴い、仏像や仏具、文書や書籍なども破却され(廃仏毀釈)、諏訪においても上社神宮寺五重塔など多くの貴重な文化財が失われました。

しかし幸いなことに、難を免れた仏像や仏具などが、信徒たちの尽力もあって、現在も周辺の寺院等に数多く受け継がれています。そのなかには諏訪市仏法紹隆寺蔵「普賢菩薩像」、岡谷市平福寺蔵「阿弥陀如来像」、岡谷市照光寺蔵「千手観音像」など、歴史的価値、美術的価値共に高い優品とされる仏像も含まれています。

諏訪大社に神仏習合の歴史があったことや、神宮寺由来の仏像等が多数存在していることは一般にあまり知られていませんが、これらは言わば「もうひとつの諏訪信仰」の痕跡を示す貴重な歴史的文化遺産と言えるでしょう。こうした歴史に改めて光を当て、破却を免れて現存する仏像等を改めて調査・研究することは、諏訪信仰の実態をより深く理解するための意義深い機会になることと思われます。

渡邉匡一

調査顧問

渡邉 匡一わたなべ きょういち

信州大学 副学長

1962年東京生まれ。1998年早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。いわき明星大学を経て、2002年信州大学人文学部助教授。2013年同教授、2015年から副学長(学術情報担当)/附属図書館長(2021年まで)。寺社資料や伝承資料の調査を通して、中世から近世における知のネットワーク形成について研究している。

織田顕行

調査顧問

織田 顕行おだ あきゆき

飯田市美術博物館

1972年愛知県豊田市出身。1995年奈良大学文学部文化財学科卒業。1997年佛教大学大学院文学研究科修士課程(仏教文化専攻)終了。1997年飯田市美術博物館学芸員(~現在に至る)。学習院大学人文科学研究所客員所員(2006~08年)、長野県立歴史館資料専門委員(2020~)、諏訪市文化財専門審議会委員(2020~)。専門は日本仏教美術史。著書に『伊那谷の古雅拝礼 仏教美術をめぐる55のエッセイ』(南信州新聞社、2012年)、編著に『信州の祈りと美 -善光寺から白隠、春草まで-』(飯田市美術博物館、2015年)、『カミとホトケの交渉史-廃仏毀釈の爪跡-』(飯田市美術博物館、2013年)、共著に『中世絵画のマトリックスⅡ』(青簡舎、2014年)など。

三好祐司

撮影

三好 祐司みよし ゆうじ

写真家

1978年、大阪府堺市出身。写真家、古武術師範、神道行者。東海大学文学部文明学科卒。文明学、宗教学、民俗学を学ぶ。職業写真家の道に進むが、広告写真業界を経て、歴史民俗の分野に立ち返り、写真業だけに留まらない幅広い活動を展開している。10年前に諏訪へ移住、スワニミズムに所属し諏訪信仰研究に注力、また甲斐駒ケ岳で修行し神仏習合の現場に携わっている。